夢降る夜と私小説。

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「ナツキの夏」エピローグ&ラストフレーム

エピローグ

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真青な空に垂直に立ち昇る積乱雲。梅雨の晴れ間特有のまとわりつく様な空気は、流れることなく俺の周りに留まり続けている。素材は季節によって変えてあるとはいえ、何時の時も長袖と決まっている警備服は容赦なく体温を上げる。拭っても、拭っても汗が流れてくる。

『何だってうちの会社は女子校の移築工事警備なんて受けたんだ? それも進学校って・・・』色んな意味で「無心」をキメ込もう。今日、三台目の大型トラックを誘導し終えた俺は、所定の持ち場に戻ると後ろから呼びかけられた。

「オジサン!」

おいおい、四時限も終わりに近いぞ。今頃登校か。制服はこの学校のものだ。

余計な会話はしないに越した事はない。『そりゃ、三十はキミ達にとっては、オジサンだろうよ』とちょっと苛立ちながら『こんにちは』と、人として最低限の挨拶をして、目を合わせないようヘルメットを深くかぶり、通行者の誘導を続ける。

「ねぇ、オジサンってば!」

『無視するな』とばかり、さっきより大きな声で呼びかけられ、俺は、仕方なく返事をした。

「どうしました? クラスに行かなくていいんですか?」

「昨日のアレ、何なの?」

「え? 昨日?」

一瞬何の話か、わからなかった。俺、何かしたか? 確かに、夜、酒は飲んだ。飲んだは飲んだが、記憶が無くなるほど酔ってはいなかったはずだ。焦りながら、アレコレ記憶をたどる。

「最後、どうしてスライダー?」

「あ! ・・・野球? の事?」

「あそこは、ストレート勝負でしょ?」

最終回、二死ランナー二塁。ワンストライク・ワンボール。左の打席に入ったバッターは、その日、スライダーにタイミングが合っていなかった。当たっても内野ゴロでゲームセット。俺は、球が走っていたにも関わらずピッチャーのシンちゃんに直球でなくスライダーのサインを出した。そこを上手く合わせられて、センター前に持っていかれた。俺の配球ミスによりチームは手痛いサヨナラ負けを帰したのだ。

「・・・キミ野球、好きなの?」

「嫌い」

「はぁ?」

そう言って校舎に向かう、その娘を初めて直視した。

一七〇センチ。艶のある長い髪。負けん気の強い横顔。

・・・そして松葉杖。







坂本夏希 ー。
天才スラッガーとの最初の出会いだった。


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ラストフレーム


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「スピリッツを・・・なめんなーっ!」


しなやかなフォームで振りぬかれた金属バット。キンッと音を立て、白球が、青い空に消えていった。



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「髪短くなっちまったな」


「あ、うん」


「あーもったいね」


「また、伸びるし、いいの」


「ふぅん」


「何よ。オジサン、気持ちワル!」


「はいはい。オジサンですが、何か?」


「・・・試合・・・無効になっちゃって・・・ごめんなさい」


「あぁ。まぁ、いいよ」


「・・・」


「俺、思ったんだけど、坂本、お前さぁ。野球やれば? 好きなんだろ? まぁ、うちのチームでとは言わんけど」


「・・・」


「出来るまででいいからさ」


「・・・」


「好きなもん我慢すんの嫌じゃね?」


「女子は絶対不利に決まってる」


「やる前から決めつけんなよ。お前は、あの矢崎からホームラン打ったやつだろ。楽勝」


「あれは、たまたまです!」


「そうかなぁ? 将来、日本に女子プロ野球リーグができて、お前はどっかのチームの4番打ってて、で、そん時は俺のヨメさんで息子はメジャー目指す」


「えー! 止めてよ! 真面目にキモい!」


「ははは! 全力否定? あ、俺は、お前より早く歳とるわけだから、現役引退したら家族のサポートにまわるの。今のチームのコーチかなんかやりながらリトルリーグで野球を子供達に教えてさ。いいだろ?」


「うー。何で私がオジサンの奥さん前提? 自意識過剰過ぎでしょ」


「っていうか、真面目にプロポーズのつもりなんだけど」


「え?」


「だってスカウトは早い方がいいだろ? でも、捕まっちゃうから、卒業後の話ね」


「は? ねぇ、オジサン。その根拠のない自信と強引さを何で試合で出せないかな?」


「だよなぁ」


「・・・その契約、絶対忘れないでよね」


「えっ? えっ?」


「忘れないでって言ったの!」


「それって、俺、逆転タイムリーってこと?」


「今はヒミツ。まずは、試合で見せてよ。人生逆転タイムリー」





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※素敵なお写真は写真AC様よりおかりいたしました。

P.S.このお話を書き終えた後、日本にも女子プロリーグがあることを知りました。
読んでくださってありがとうございました♪






by yumefuru | 2016-04-12 22:10 | ショートショートストーリー
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夢が届けてくれた物語。そのかけらをひろいあつめて綴ります。


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