夢降る夜と私小説。

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THE DAY(3)

小山内さんが『待っている間、どうぞ』と言って冷えたアイスティーを出してくれた。お店には徐々に人が集まって来た。その都度、紹介を受けるけれどもう誰が誰なのか顔と名前が一致しない。
「慎司、久しぶり」
「英次」
「君がさくらちゃん! 萌・・・いや、かわい~! 俺、ベースの英次。今日は、よろしく」
今まで挨拶した人達は、皆どこか、『音楽家』を感じさせる雰囲気を持っていたが、この英次という人は、黒の上下のスーツに長髪・無精髭という格好で、いかにもお金持ちの遊び人風だ。やけにギラギラ光る皮靴が存在を主張していた。
「変わんないね。お前」
「えー? 自分では変わったと思うけど」
楽屋へ向かう英次さん。
「やれやれ。あ、あいつは音大主席で卒業したのに関わらず、女の子がお酒の相手してくれる指名制の夜の店のオーナーになったっていう・・・」
「それって、キャ・・・」
「あれ? やだなぁ。しんじくん。サラリーマンの癒しスペースと言ってくれよ」
楽器を置いて戻ってきた英次さんは、慎司先生の後ろから肩をポンポンとたたいてニッと笑ながら言った。そして、軽い身のこなしで皆に挨拶に行く。

「い、色んな人がいるんですね」
「あいつは別格だけど、音楽やってるヤツなんてちょっと変わってるのが多いんだって」
「うん。あ、先生もね」
「ま、腕は確かなんだけど」

「こんにちは。成瀬君」
「あ、敬子ちゃん・・・」
次に、先生に声をかけてきたのは、目鼻立ちの整ったスレンダーな女性だ。
『うわー、すごい綺麗な人!』
ドキドキして慎司先生を見上げる。
「唯の具合はどう?」
「えっ? あ、うん・・・」
慎司先生は、チラッと私を見た。
「あ、ごめんなさい・・・。後にします。今日は私、バイオリン担当です。ええと」
「い、磯谷さくらです。よろしくお願いします!」
「よろしくね」

深々とお辞儀するあたしを見て慎司先生はぷっと吹き出した。

「もう、ほっといてください」



あたしは『唯』という名前を聞いたとき、一瞬で慎司先生の瞳が暗く沈むのを見てしまった・・・。
by yumefuru | 2014-05-05 21:47 | 小説 STILL BLUE
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夢が届けてくれた物語。そのかけらをひろいあつめて綴ります。


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