人気ブログランキング |

夢降る夜と私小説。

yumefuru.exblog.jp ブログトップ

ルナフレンズ

f0219978_22413173.jpg


月は確かな円を描き、雲一つない夜の太陽となった。輝きは一層強さをまして降り注いでいる。いつもより明るい夜の道。鈍く銀色に染まる世界を私は歩いていた。

その人は、車道の縁石に座り月の光を浴びながら、空を見上げていた。

すべての生き物が、息を潜め深い静けさに包まれている。間もなく今日と明日が交差する時間だというのに彼女は警戒もせず、私に気づいていても驚く様子はない。

煙草の香がする。

誰かが言っていた。綺麗な空気の中で吸う煙草は格別だと。間違っても車に飛び込む前の最後の一服ではないだろう。

歩く度、私が持つコンビニの袋がかさかさと音をたてる。

静寂を邪魔され不快そうに眉をひそめる彼女。

「うるさくして、ごめんなさい」

歳は、22か23ぐらいだろうか。

「・・・」

「何してるの?」

「・・・」

「だって、真夜中にこんなとこで一人で」

「・・・別に。月が綺麗だったから。知ってる? スーパームーン」

「スーパームーン?」

「そう。今夜はスーパームーンなの」
そう言うと彼女はニッと笑った。

二人見上げた空は零れそうな月明かりだった。

「月光浴・・・かぁ。ねぇ、私も隣り座ってもいい?」

「・・・好きにすれば?」

私は、彼女の隣りに座った。彼女のゆるい癖っ毛の髪が、冷んやりとした風に揺れる。どれ位時間が経っただろう。何度か雲が、月の前を通り過ぎていった。話すこともなく私たちは時を共にした。

「・・・このまま狼になったりして」

私が言うと、彼女はまたニッと笑う。

「それはナイな」

「私のアパートは、この先なんだけど」

「あの、白いの?」

「うん」

「あたしは、こっち」

公園を挟んで二棟ならんだ、マンションを指差して言った。

「近いね」

「うん・・・。でも、明後日には引っ越しするんだ」

「えっ、ほんと?」

「父の転勤」

「そう・・・残念」

「はは、何で? 今さっき会ったばかりの見ず知らずの他人でしょ」

「・・・そうなんだけど」

車が、一台通り過ぎる。私が困った顔をしたのがわかったらしく、彼女は言った。

「でも、まぁ、転勤は嘘」

「えー?」

彼女は、煙草に火をつけて月を見ながら話した。

「だから、知らない人を信じちゃだめだって。ここにいたのも、月を愛でるためなんて、そんなロマンティックなもんじゃないから」

「・・・」

「来月父親が再婚するの。今日は、その相手が家に来てて。まぁ、悪い人じゃないんだけど。でも、まぁ、なんか、気まずいっていうか。で、居づらくなって、でてきちゃたの」

「そしたら、たまたまスーパームーン?」

「そう」

またニッと笑い彼女は続けて話す。

「あの家は、二人の家になるから、あたしは一人暮らし始めるんだ」

「そう」

「あ、ヨーコさんを連れて行くから、二人暮らしか」

「ヨーコさん?」

「猫」

「へぇ。それは、素敵な同居人ね。・・・って、それも嘘だったりしないよね?」

「さぁ」

彼女はふふふと笑い『あたしはリリカ』と名乗った。

「私はミナミ。吉田ミナミ」

「あぁ。そろそろ帰らなきゃ」

「うん。・・・ねぇ、リリカ。また、会えるかな? 私たち」

「どうかな」

私たちは、社交事例のように互いの連絡先を交換しあったが、それは、多分この先一度も使われることはないだろうと、私は、なんとなく感じていた。そして、スーパームーンの夜に偶然出会った私たちは、友達と呼べる確証もないまま別れを告げた。














あれから2年。真夜中に携帯がなる。

着信名にドキドキが止まらない。

「はい。吉田です」

「知ってる? 明日はスーパームーンよ」

聞き覚えのある声。

「・・・うん」

私たちが時間を超えるのは造作もないこと。

「ヨーコさんも見たいって」

「じゃあ、あの場所で3人で」
by yumefuru | 2013-06-26 21:37 | 読み切り
line

夢が届けてくれた物語。そのかけらをひろいあつめて綴ります。


by yumefuru
line
クリエイティビティを刺激するポータル homepage.excite
カレンダー
S M T W T F S
1
2 3 4 5 6 7 8
9 10 11 12 13 14 15
16 17 18 19 20 21 22
23 24 25 26 27 28 29
30