夢降る夜と私小説。

yumefuru.exblog.jp ブログトップ

THE DAY(1)

f0219978_12561436.jpg


音楽室からピアノが聞こえた。あたしは静かにドアを開ける。

「意外」

「今日は、よかったじゃないか。さくらのグループ。意外って何が?」

「先生のピアノ・・・」

「たまにはいいだろ」
そう言うと、慎司先生は「ハナミズキ」をテンポも旋律もぐちゃぐちゃにして、それなのに、その曲が「ハナミズキ」だと分かるように美しく弾いた。

「・・・一度ぐらい、音あわせしたいんですけど」

「え? あぁ。うん。でも。まあ。いいんじゃない。しなくても」
先生は、一音ずつ変わるコードに合わせて返事をした。

「えーっ?」

「俺は、愉しみは最後まで取っておきたい人なの」

「それって」

「さくらのことは、全然心配してないし」

「あたしが心配です」

「大丈夫だって」

「先生って、Sですか?」

「ははは。そう。分かる?」

「はぁ」

「いいんだよ。セッションってそんなもんだろ。場所はS市だけど、誰か誘ったら?連休だし」

「・・・」

「美紀先生は来るって言ってたよ。行く時、一緒」

「・・・」

「嬉しいと思うけど。誰か一人でも応援してくれるヤツがいると」

「・・・そうですね」

「さくら。待ち合わせの時間と場所、忘れるなよ。結構スケジュール、タイトだから」

「・・・分かりました」
合唱部の女子が笑いながらなだれ込んできたのであたしは、音楽室を後にした。





 -そして、結局、一度も音合わせすることなく、ライブ当日が来た。


待ち合わせの駅に早めに着いたさくら。携帯を手に改札口で皆の到着を待っていた。夏の太陽が天辺に上がりジリジリ照りつける。

『あちぃ』

「お待たせ。さくら」

「あ・・・。今日はよろしくお願いします」

「こちらこそ。中、禁煙だから、煙草一本吸ってた。しっかし暑いなぁ」

「慎司先生、さくらさん。こんにちは」
遅れて美紀先生が到着した。

「揃ったみたいだし、それじゃ、行きますか?」

「あ・・・、あの」
さくらは携帯を握りしめる。

「あ、私切符買ってきますね」
何か言いたそうなさくらを見て気を使かい、美紀先生は一人で切符売り場に向かった。

「すみません美紀先生。よろしくお願いします」

「牧野なら時間まで自分で行くって言ってたよ」

「あ・・・。はい」

「よかったな」

「・・・んー。それか、落ち込むかどっちか」
by yumefuru | 2011-07-25 12:58 | 小説 STILL BLUE
line

夢が届けてくれた物語。そのかけらをひろいあつめて綴ります。


by yumefuru
line
クリエイティビティを刺激するポータル homepage.excite
カレンダー
S M T W T F S
1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
31