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夢降る夜と私小説。

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「ローランサンの娘たち」 エピローグ -二人-

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バスを降りて、急いであたしは美術館の中庭を目指した。通路に敷かれた化粧石が、夕日に照らされキラキラと輝いていた。



「おかえりなさい。手紙・・・。ありがとう」

「ここに来てくれたってことは・・・少しは脈がある? それとも、やっぱり、あたしは知美を失うの・・・?」
「・・・」
長椅子に座ったままジュエルは消えそうな声で話した。
「もう、二度と逢えないかと思ったら、すごくつらかった。 ・・・離れてる間、あなたのことばかり考えてた。ジュエル・・・あなたが好きよ」
あたしは優しく抱き寄せて言った。
「・・・酷いよ。一瞬でもあたしの想いを拒むなんて・・・」
うっうっと腕の中で嗚咽をもらすジュエル。
「・・・ごめんね。ジュエル・・・。素直にあなたの気持ち受け入れられなくて・・・」
「今までのあたしだったら、きっと、諦めてた・・・。でも、知美のことは諦めない」
「・・・若いあなたと愛し合うには、あたしはもう、オバサンよ・・・。それでもいいの・・・?」
豊かな黒髪に触れてあたしは言った。

「・・・知美は知美だ」

「あの日の言葉、信じていいのかな?」

「約束する・・・。ずっと、側にいてあげる・・・。あたしが知美を幸せにする」

「・・・うん」

あの手紙に書かれていたことは、事実ではないかもしれない。あの人なら心を操るなんてお手の物だろう・・・。もしかしたら、ジュエルがあたしの心を繋ぎとめようと考えた架空の話かもしれない・・・。でも、もういい。あたしは宝石をこの手に取り戻したのだから・・・。



「帰りましょ。マスターにお礼言わなきゃ」
「うん・・・」

あたしの差し出した手をとって長椅子から立ち上がるジュエル。噴水の音が優しく聞こえていた。兎のオブジェの向こうで遠い日の幻影が手を振っていた。あの日の笑顔で・・・。あたしは、心の中で『さよなら』とつぶやく・・・。



「パパとママにあってよね」

「え?」

「随分前にカミングアウトして、家を追い出されちゃったけど、あなたのこと恋人だって紹介するの。いいでしょ?」

「勿論」

「あたし、ずっと夢だったの。太陽の下で、好きな人と堂々と手をつないで歩くこと・・・」

「そんなの、今すぐ叶えてあげる」

ジュエルが左手であたしの右手をぎゅっと握った。睫毛に光が集まる。横顔が百合のように美しく清々しい。あたしは聞いた。

「ねえ、本当はいくつなの?」

「二十歳」

あたしとジュエルは声を合わせて言った。

「あと六ヶ月で!」




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短編「ローランサンの娘たち」
これまでのお話はこちらからどうぞ
第1話 プロローグ
第2話 知美 -1-
第3話 知美 -2-
第4話 知美 -3-
第5話 知美 -4-
第6話 ジュエル -1-
第7話 ジュエル -2-
第8話 アクア
第9話 過去からの手紙
by yumefuru | 2011-06-10 15:50 | 短編 ローランサンの娘たち
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夢が届けてくれた物語。そのかけらをひろいあつめて綴ります。


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