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夢降る夜と私小説。

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「ローランサンの娘たち」 過去からの手紙

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知美へ。

懐かしいわ。あなたと過ごした時間、今も忘れていません。

放課後の夕日、手の温もり、何もかも昨日のように思い出すことができます。

あなたが今でも私を想ってくれていると知って嬉しかった。



私の元に若い女性が訪ねてきました。

あの美術館の写真を持っていたので、私はとても驚きました。

あなたの前から姿を消したのは何故なのか、

本当の事をあなたに話して欲しいと、彼女から言われました。

私はあなたと再び会うことは、許されないから・・・。

こうして手紙を書いています。



ずっと、私の心にしまっておこうと思ったけれど・・・。

時は経ちましたね。



私は、最後にあなたと交わした言葉通り、

本当に心理学を勉強しました。

医者になり、臨床心理士の資格も。

大変だったけど、母方の実家から大学に通わせてもらいました。



私の父親はろくでもない男だった。

人目があるときは、気さくな『どこにでもいるお父さん』だったけど

家の中では、母と私に暴力を振るう酷い男だった。

ある日、私の不注意で、あなたとの関係を父に知られてしまったの・・・。

怒り狂った父は、私をこの世のありとあらゆる差別の言葉で罵り・・・。

きっと、父は、あなたを見つけ出してあなたを傷つけるに違いない。

私はあなたを守りたかった・・・。

あなたを連想させる物は何一つ残してはいけない。

そう誓い、あなたとの未来を・・・この想いを封印しました。



何も言わずあなたの前から消えたこと、許してください。

いっそ、憎んでくれたら、きっと、あなたは私を忘れてくれるだろう。

そう心に納得させて町を出ました。

それが、長い間、あなたを苦しめてしまうことになるなんて・・・

本当に、本当にごめんなさい・・・。



今は、心労から入院した母を、同じ病院で看ています。

傷ついた子供たちの心を少しでも救うことで、私も救われています・・・。



ずっと、あなたといたかった・・・。

この痛みを抱えて生きるのが、せめてものあなたへの償いです。

さようなら。もう、二度と連絡はしません。

あなたが、いつまでも幸せでありますように・・・。



                   諏訪原 茉莉



あたしは、捨てられたのではなかった・・・。茉莉もまた、同じように苦しんでいた・・・。溢れる涙にあたしは両手で顔を覆った。あんなに近くにいたのに何も知らなかったなんて・・・。だってあなたは、いつも笑っていたじゃない・・・。茉莉・・・。 茉莉・・・! 



封筒には、『これはあなたね』と言って、あたしが昔あのひとにあげたマリー・ローランサンのポストカードが同封されていた。

そこには懐かしい字で、こう書かれていた・・・。

― 愛しい宝石を身につけなさい ―


「知美ちゃん。ジュエルが、君の思い出の場所で待ってるって」

「・・・!」




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短編「ローランサンの娘たち」
これまでのお話はこちらからどうぞ
第1話 プロローグ
第2話 知美 -1-
第3話 知美 -2-
第4話 知美 -3-
第5話 知美 -4-
第6話 ジュエル -1-
第7話 ジュエル -2-
第8話 アクア
by yumefuru | 2011-06-07 12:48 | 短編 ローランサンの娘たち
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夢が届けてくれた物語。そのかけらをひろいあつめて綴ります。


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