夢降る夜と私小説。

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「ローランサンの娘たち」 ジュエル -2-

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飛び出す時、思わず手に取って持ってきてしまったフォトスタンド・・・。写真をフレームから外し、フレームはショルダーにしまう。あたしはしばらくの間その写真を見ていた。二人の未来に、別れなど来る筈がないと、疑いもしない知美の笑顔。らしくない。涙でかすむなんて・・・。



閉館の時間を告げる音楽が静かに流れてきた。通りかかった老夫婦が写真を見て驚いたように話しかけてきた。
「あらまあ、ずいぶん良く似た人だねぇ」
「えっ?」
慌てて、涙を拭いた。
「うん。良く似てる似てる。その左の人」
「・・・お婆ちゃん。この人を知ってるの・・・?」
「昔、とてもお世話になった人に似てる」
「ほんとに?」
「ねえ、あなた? 間違いないわよね?」
老眼鏡をしっかりとかけ直し、写真を手に取ってご主人が答える。
「うん? ああ、そうだね」
「おばあちゃん、教えてください。 どこで、この人と会ったのか」
二人は顔を見合わせて話そうかどうか迷っているようだった。少ししてお婆ちゃんが話してくれた。
「・・・十年前、私たち家族は、宮城県に住んでいましてね、あの恐ろしい震災に遭いました・・・。余震が何日も続いて・・・。それはそれは大変でした・・・。避難所には、家族を亡くした人もいました・・・。私たちも息子を・・・。かわいそうだったのは、お嫁さんと幼い孫でした。そんな私たちの悲しみに熱心に耳を傾けて、心のケアをしてくれたのがこの方です」
「医者としては若かったけれど、頼りになる立派な先生だったよ。いつでも連絡をくださいと、名刺をいただきました。確か、家にあるはずだ」
「ええ」
「新潟の方から来たと言ってたね・・・」


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短編「ローランサンの娘たち」
これまでのお話はこちらからどうぞ
第1話 プロローグ
第2話 知美 -1-
第3話 知美 -2-
第4話 知美 -3-
第5話 知美 -4-
第6話 ジュエル -1-
by yumefuru | 2011-05-31 12:10 | 短編 ローランサンの娘たち
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夢が届けてくれた物語。そのかけらをひろいあつめて綴ります。


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