人気ブログランキング |

夢降る夜と私小説。

yumefuru.exblog.jp ブログトップ

「ローランサンの娘たち」 知美 -2-

f0219978_18174636.jpg


それから三日後。その日もまた、残業で午前零時を過ぎてしまった。明かりの多い大通りを通ってマンションに帰る途中、間もなく仕込みが始まるであろうパン屋さんの前で、巡回中の警察官に呼び止められている女の子を見かけた。質問攻めにあっているその娘をよく見てみると、なんとジュエルだった。腕をつかまれ今にも連れて行かれそうになっているジュエルを見てあたしは慌てて声をかけた。

「ジュエル」
「!」
「あ、お知り合いですか?」
「はい。私のいとこのジュエルです・・・」
嘘も方便。そういう事にした。
「こんな、遅くに何をしているのかお聞きしていたのですが、答えてくれませんでしたので。見たところ未成年だと思いまして」
「だから、未成年じゃないって」
暴れるジュエルの肩を抱いてあたしは言った。
「すみません。彼女、今夜、私の家に泊まりに来ることになっていまして・・・。それが、私、仕事で遅くなってしまったのでカラオケで時間を潰してもらっていたんです。先のコンビニで待ち合わせすることになってました」

「そうよね? ジュエル」
「・・・」
納得がいかないという顔をして、その警察官があたしをじっと見た。
「本当に申し訳ありませんでした。私がちゃんとしていれば・・・」
「・・・わかりました。この辺は明かりがあるからと言っても、夜は治安があまり良くありませんから、本当に注意してください」
そう言うと、また巡回に戻った。

あたしとジュエルはしばらく口をきかずに歩いた。
「知美。さんきゅ・・・」
黒のタートルを両手で直しながらジュエルは言った。歩きながら化粧をしていない彼女の顔をよくよく見てみると、アクアで出会った時とは違って幼く見えた。あの警察官が未成年だと勘違いしてもしょうがないと思った。
「ねえ、本当はいくつなの?」
「二十歳」
「嘘じゃなかったんだ」
「あと十ヶ月で」
「え? それじゃやっぱり未成年じゃない」
切れ長の瞳が笑って細くなった。
「知美は?」
「・・・三十四」
「知美。あたし、泊まるとこないんだけど」
「ふぅ。知ってる。家に来るんでしょ。ねえ、煙草だけはやめたら?」
「無理」



マンションの玄関の明かりをつけて、あたしは先にリビングへ。
「高そうなとこ住んでるね」
部屋が冷え切っていたので、両手で自分の身体を抱きしめながらジュエルは玄関で待っている。贅肉がまったくついてないから余計寒そうだ。
「会社からちょっと家賃の補助があるからよ。それじゃなきゃ住めないわ。入って」
エアコンをつけながらあたしは言った。
「素足じゃない。フローリング冷たいでしょ。スリッパ使っていいのに」
「なんか、慣れてない」
「別にいいけど」
部屋は一番広いリビングダイニングを入れると他に二つある。
「こっちの部屋使って」
「悪いよ。一部屋全部なんて・・・」
「誰か来たときのための部屋だからOK。部屋がなかったら泊めるなんて言わないよ。それに、あなた、しばらく行くとこないみたいだし。好きに使ってね。そのソファー、ベッドになってるから」

「さんきゅ・・・」

「ねぇ。知美の部屋見せてよ」
「ううん。いいけど。散らかってるよ」
「いいじゃん」
ジュエルはそう言うとあたしが止めるのも聞かず部屋へ入って行った。
「ちょっとぉ」
腕組みをしてドアの前に立つあたしのほうに振り返ってジュエルが言った。
「意外に何もないね」
「ぬいぐるみとか小物とかいっぱいあるとでも思ったの?」
「あの部屋は明日から使う。今日は知美の部屋で寝る」
「え?」

「だって生っぽいし。そういうのがいいの。そういうの忘れてたから」

「意味がよくわかんないけど・・・」

寒いと言ってベッドに転がり込んだジュエル。よほど疲れていたのか、すぐに寝息が聞こえてきた。自分勝手は若者の特権。身勝手さに腹立たしいとは思いつつも彼女はまだ十九だ。それにしても二十歳前の小娘に振り回される三十四の女とは笑える。

彼女の薄い肩がでていたので、上掛けを直してあげた。

シャワーを浴びて厚めの毛布をひっぱり出し、あたしはリビングダイニングのソファーで休むことにした。気付けば時計は午前二時を回っていた。仕事はフレックスにすればいい。

隣の部屋で眠るのが、あのひとだったら・・・。いいえ、違う。あたしは幻を振り切って眠りについた。

******************************
短編「ローランサンの娘たち」
これまでのお話はこちらからどうぞ
第1話 プロローグ
第2話 知美 -1-
by yumefuru | 2011-05-17 12:58 | 短編 ローランサンの娘たち
line

夢が届けてくれた物語。そのかけらをひろいあつめて綴ります。


by yumefuru
line
クリエイティビティを刺激するポータル homepage.excite
カレンダー
S M T W T F S
1
2 3 4 5 6 7 8
9 10 11 12 13 14 15
16 17 18 19 20 21 22
23 24 25 26 27 28 29
30