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夢降る夜と私小説。

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アンバランスハート

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「失礼します。」
翌日の放課後、俺は音楽教官室に入る。

「どうした? 牧野」
慎司先生は散らかっていた書類をトントンと揃え机に置いた。

「最近、顔見なかったな。さくらが・・・」

ダラダラ聞いていられるか。
「病院で先生を見ました」

「・・・。あぁ。知ってる。中野さんが、看護士さんが俺の学校の生徒が来たって」

「入院してるのは、先生の奥さんなんだろ? でもって、奥さんの曲の楽譜をさくらに渡したりして・・・」

「・・・」

「なんで? 奥さんが入院しててライブできないからって、代わりにさくらにピアノ弾かせようってことなのか? それとも、奥さん入院してることをいいことに、生徒と・・・」

先生が俺をじっと見て言う。
「不倫とか浮気とか言いたいの? お前」

視線をそらして、やれやれ、と呆れたように話し出す。
「いかにも、幼稚な高校生が考えそうな事だな。
・・・そう思いたければ思えばいい。ずっとそうやって考えてれば?」

「ふざけないでください。先生。さくらの家の事情とか知ってて、誘ったりしてんだったら俺は・・・」

「だったらどうする?

・・・そうだな。さくらはいいよ。ホント。俺とぴったりだ。
・・・寂しがりで強がりで・・・おまけに才能にあふれてる。
さくらは俺にとって大切な人だよ」

「なっ?」

先生は、一呼吸おいて煙草に灯をつけた。
「お前はどうなんだ?」

「俺?」

「なぁ、牧野。お前が喜びそうなことを教えてやろうと思ったけど。やっぱりやめた。それに、好きでもない女とつきあったりする男にどうこう言われる筋合いない」

「よ、吉沢のことは、ちゃんと・・・」

「必要な時、さくらの側にいてやるだけだよ。道に迷ってたら、何かヒントをあげるんだ。それが教師ってやつだろ」

「・・・」

「お前はさぁ、一番さくらの近くにいて、さくらのこと知ってんだろ?

・・・それなら、逃げんなよ」



―― それなら、逃げんなよ。


煙草の煙。通り雨の音。わかっているんだ。言われなくても。
by yumefuru | 2011-02-18 22:34 | 小説 STILL BLUE
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夢が届けてくれた物語。そのかけらをひろいあつめて綴ります。


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